Artist / モンデンエミコさん
制作に入ると、自宅(作業スペース)にこもりがちな日常ですが、展覧会に足を運び、あ~良い作品(展覧会)だった!と思うことは沢山あり、見聞きしたすべてのアーティストの方について書くことはできないのですが、私自身の興味や考えていることと繋がり、深く感じ得たアーティストの方やその作品などについて時々書いていきたいと思っています。
今回は2016年に参加した金沢21世紀美術館のグループ展で出会ったモンデンエミコさんとその作品についてお話したいと思います。
美術館の展覧会当時、モンデンさんは二人目のお子さんをご出産されたばかりで参加され、作品は美術館のパブリックスペースにて、刺繍の絵日記を会期中毎日更新していくというものでした。その後、私は自身の妊娠と出産をはさんで、二度ほどモンデンさんの展覧会にお邪魔する機会がありました。作品を拝見するなかで、これらの作品が女性ならではの非常に独創的な作品だと考えるようになりました。刺繍によって構成された作品を「女性的」と表現することは、取り立てて特別なこととは感じられないかもしれません。「女性的」というとおそらく一般的にはモチーフがかわいらしいとか綺麗、内容が感性的、生理的であることや、時として華やかだが内容が感覚に依りすぎていることの揶揄として用いられることもある言葉かもしれません。私がモンデンさんの作品を女性的ということには、これらとはまた違うニュアンスにおいて語りたいという思いがあります。
モンデンさんは日々の暮らしの家族・子供たちとの出来事を、日常のなかで手にした様々なオブジェクト(チラシやお菓子のパッケージなど)を支持体に日記として刺繍で記録されています。もともとモンデンさんは衣食住の暮らしの営みと同じように作品を作るという信念をもって活動されてきたアーティストです。子供と過ごすなかで細切れになりがちな時間のなかで作品を作ること(お子さんを二人お世話しながらの日々の忙しさたるや想像に難くありません。)、刺繍という手法、日常の記録である日記というメディアへの落とし込みを通じて、「母親になることを選択をした女性」「現代を生きる女性の姿」「生の時間」が体現されていて、それらが長い期間継続され蓄積され続けていることで、さらなる厚みを獲得しているように思います。
私はモンデンさんの作品について、私自身が子供を出産し育てるなかで、より一層の共感を抱くようになりました。制作に費やせる限られた時間のなかで、その日一日に起こった出来事をどのように取り出すか。的確な選択と瞬発力は、おそらく「日記をつける」というモンデンさんが長年継続されてきた日常的な習慣のなかで培われた「技術」があってのものでしょう。私は子育てと作家活動の両立の渦中で、「女性の人生の時間」「継続的なプロセス」「メディアと手法」が一体となって成立しているこの作品に何かワクワクする希望のようなものを感じたのです。
家族や子供たちをケアする中で、女性ならではの繊細な気づきの視点によって表現されているという意味においても非常に女性的であり、「子どもを産んで育てる」という女性たちが経験しながら未だに社会の隅に追いやられていることが、作品に含まれ提示されている(ご本人は声高にそれを強調しようとしているわけではないと思いますが)ことに非常に独創性があり、同じ女性ながら大きな驚きと衝撃を受けました。
一見軽やかに、何気ない日々の出来事を記録した作品。この裏側には女性として母親として、ひとりの人間の血の通った時間、悩みや苦労と喜びがあるはずです。私は作品を目の前にすると、記された家族の時間と記憶の愛おしさに涙が出そうになります。女性のアーティストとして様々な気づきと希望のようなものを感じさせてもらったモンデンエミコさんの作品です。
※以前展覧会にお邪魔した際の作品画像を載せたかったのですが、見つからず・・。画像なしの記事ですみません。